2009年08月25日

まとめ:選挙へ行く前に確認しておきたいこと

まとめ:選挙へ行く前に確認しておきたいこと





 今日はRootportの覚え書き的な記事です。私の主張はともかく、リンクで引っ張ってきたデータはどれも最低限おさえておきたいモノばかりだと思います。経済のことよく分からないまま有権者になってしまった私みたいな人の参考になるかも知れないし、ならないかも知れない。まあそんな内容。



「金がない(とくに若い人に)」
「仕事を辞めると即死する。転職しても即ブラック」
「そもそも仕事がない」

 このブログを読んでくれているのは私と同年代の方が多いと思いますので、3つのうち1つぐらいは共感していただけるのではないでしょうか。純朴だった学生時代、社会人になればお金で悩むことはなくなるだろうと私は信じていました。考え甘かった。生活を維持するだけでこんなに金がかかるとは思わなんだ。

 で、以前にも触れたとおり、日本の一人当たりGDPはぐんぐん下がっています。2000年には世界第3位だったのですが、2008年では23位だそうです。企業でたとえるなら、社員一人当たりの純利益がどんどん下がっている状態。そりゃ給料もあがらないはずだ。
 事実、一人あたりGDPの低下は世帯所得を直撃しています。

平均所得は556万2000円、昭和レベルに逆戻りへ
http://www.fukeiki.com/2009/05/average-income-drop.html

 つい昨年まで“戦後最長のいざなみ景気”だったわけですが、世帯所得はこの10年下がりっぱなしです。たしかに日本の名目GDPは上昇していました。しかし、それは日本国内の経済が活性化したからではありません。統計調査を見ればそれは明らかで、国内の収支はほぼ横ばいで、輸出だけが伸びています。輸出によって国外から金が流れ込みました。が、その金が、血流のように日本国内を駆け巡ることはなかったのです。

日本のGDPの推移
http://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html#index02

GDP(国内総生産)、経済成長率
http://www.amy.hi-ho.ne.jp/umemura/konna/gdp.htm
※「民間最終消費支出」とは、家計が消費につかった金額を意味しています。伸び率が高いほど、我々パンピーが豊かになったと言えるはず。


 GDPの伸びは、輸出に頼ったものでした。輸出がダメになったとたん、経済がどん底に落ち込んだのはそのためです。

・家計が消費しない(できない)
 →売上が伸びない
 →人件費削減
 →ますます家計が消費できなくなる
 という悪循環がそこにはあります。不況・不景気とは、この悪循環が続くことを意味しています。どうにかしてこの悪循環を断ち切らねばなりません。

 本当に断ち切れるの?
 どうやって断ち切るのが、いちばんなの?
 今回はそのあたりを考えてみましょう。キーワードは、ベーシック・インカム。





◆誰もお金を使わないなら、政府が使えばいいじゃない。



 不況脱出には「政府の大型公共事業が有効」とされてきました。これは日本に限りません。古くはニューディール政策からずっと、世界の常識として叫ばれてきたことです。最近ではオバマ大統領が「グリーン・ニューディール」という言葉を使っていたのが記憶に新しいですね。

 政府がお金を出すことで、企業の売上を伸ばしてやり、それによって雇用創出→所得増→家計消費増という流れを生み、上記の悪循環を断ち切るのです。


政策の相対図004.jpg


 日本政府も、そういった大型公共事業を続けてきました。ダムや橋梁、最近では「マンガの殿堂」を作っています。


 ですが、この方法ではうまく不況を脱出できなくなってきました。
 理由は二つあります。
 ひとつは労働分配率の低下を放置してきたこと。
 労働分配率とは、企業のもうけのうち、どれぐらいを労働者のサイフに還元しているかを示します。企業のもうけは景気によって常に変動しますが、給与は簡単には変わりません。そのため景気が悪化しているときには労働分配率が上昇します。もうけは減っているのに給料はそのままだからです。逆に景気が回復しているときには、企業のもうけが伸びているにも関わらず給料は変わりづらいため、労働分配率は低下します。
 いざなみ景気にともない、労働分配率はずるずると低下を続けました。この労働分配率を向上させなければ、所得増からの景気回復にはつながりません。不況の悪循環を断ち切ることができません。ですが、実際には労働分配率の低下は放置されました。労働組合がベアを求めなくなったことや、政治・経済への無関心などが関係していそうです。(注1)
 もうひとつは将来への不安です。人口減少は明らかですが、日本の社会システムはそれに対応したものになっていません。したがって、このままいけば今の社会保障は将来破綻することが予想され、人々は消費を控えます。ひとり一人の貯蓄性向が上がることで、消費が落ち込み、かえってみんな貧乏になってしまう……この現象を、経済学の世界では「貯蓄のパラドックス」と呼ぶそうです。たとえ所得がわずかに増えても、それが消費に向かいづらい状況になっています。


政策の相関図005.jpg


 なによりも問題なのは、一部の人間のみで公共事業の内容を決めている点にあります。誰も使わない空港や必要のないダム、たまにしか自動車の通らない高速道路。そういった無駄な公共事業の産物が、この国にはたくさんあります。ごく少数の人間が「特権」として金を動かせるのであれば、そこに利権が生じるのは無理のないことです。資源分配がゆがめられます。
「みんなが」「本当に必要としている」ものは、みんなで決めたほうがいいでしょう。いまのところ、完全競争市場よりも効率的な資源分配の方法を、私たち人類は知りません。





◆究極の社会保障? ベーシック・インカム



 現状の問題として、労働分配率の低下を放置したことと、将来への不安があることとをあげました。ではそれらを解決すれば、景気は回復するでしょうか。私たちのサイフに金は入ってくるでしょうか。

 まず労働分配率について:たとえば国の政策として引き上げを義務化しても、おそらく景気は浮遊しないでしょう。企業は海外に生産拠点を移すだけです。
 私の知り合いに、京都の扇子職人(見習い)がいます。祇園祭の夜、露店で売られる500円の扇子を見て、彼はため息まじりにつぶやきました。「うちで作ると、500円なんて材料費にもならない」
 扇子に限らず、「日本国内で生産すること」はものすごいコストを要します。そういったコストの差を、扇子職人の彼は肌で感じているのでしょう。日本の製品は品質の高さで勝負できるから〜、といった言説は、生産コストの圧倒的な差異を考慮しているのでしょうか。

 そして、将来への不安について:日本の人口が減りつつあるのは間違いありません。いま0歳の子が働けるようになるのは、およそ20年後です。つまり労働人口については、20年先までほぼ結果が見えています。「税金を納められる人」の割合は減り、「税金に養われる人」の割合は増えます。
 要するに、国の借金はもうこれ以上増やせないということが判ります。返済できるあてがないからです。しかし、税金に養われる人の数は増えていく。今までの金の使い方を、大きく変えるほかありません。

 大型の公共事業により雇用を創出するというモデルは、すでに成り立ちません。
 家計消費を快復させ、失業や貧困を解決するには、他の方法が必要なのです。



 ここで登場するのが「ベーシック・インカム」というアイディアです。
 生活するのに最低限必要となるであろう金額を、国民全員に一律で支払ってしまうという制度。
「家計消費を伸ばしたいなら、サイフに直接お金をつっこめばいいじゃない」という発想に基づいています。(注2)

 グーグルで検索すると、賛同する人の多さに驚かされます。わりと有名な人では、こんな人も賛成していたり。http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10178349619.html


 そもそも公共事業とは、富の再分配の方法でした。
 お金持ちの収めた税金を使って、貧乏人に雇用と所得を与える。その方法の一つに過ぎません。政府から受注を受けた企業が売り上げを伸ばし、設備投資などにお金を使うことで、さらに他の雇用が生まれる――。そうした波及効果が機能しているうちは、ただお金を配るよりも効果的な方法でした。
 しかし、現在ではそれが上手く機能しなくなった。
 だからもう公共事業なんてやめて直接お金を配っちゃえよ、という発想なのです。

 生涯にわたって衣食住が保障されるのならば、人々が貯蓄に回す金額は大きく減りそうです。
 リスクテイクを恐れる必要がなくなるので、起業なども活性化するはずです。


参考)
ベーシックインカムの世界
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090211

ベーシック・インカムに賛成するのに十分なたった一つの理由
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50907051.html

「ベーシック・インカム」を支持します
http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/df9729ff82024e97dd3447d08d9c5f27



 今すぐに実現することは不可能でしょうが、遠い未来の理想像なのでは。残念なのはちょっと未来過ぎることか。「あさっての方向」に進んだ議論です、今はまだ。

 では、「あした」のことを考えるとどうなるか。
 ベーシック・インカム制度は、究極の社会保障制度とも言えるでしょう。
 ならば、少しでも無駄な公共事業を減らして、その分のお金で社会保障を充実させることが、まず第一歩になります。単なるバラマキではない「選択と集中」が必要です。まず社会保障へとお金を集中させることが、近い未来を想定した、地に足の着いた議論だと思われます。





◆誰が何を言っているのか


 では公共事業と社会保障について、各政党の立ち位置はどのようなものでしょうか。
 私なりにまとめてみたのが下記の図です。


政策の相対図001.jpg


 縦軸は社会福祉の充実を求める度合、横軸は公共事業への支出を求める度合を示しています。
 たぶんツッコミどころ満載。むしろ後学のため、ツッコんでほしい。

 ベーシックインカムを支持するブロガーさんたちは、ピンク色のブロックで示しました。大型公共事業の全面廃止とセットでのベーシックインカム制度の導入を訴えていますから、公共事業は最低限のインフラのみとなり、あとは全額社会福祉――つまり最低所得の保証へと回されます。
 で、たとえば自民党は、公共事業を強烈に推し進めてきました。また近年までの構造改革では、社会福祉への支出を削減してきました。
 また民主党についても、以前は(自民党よりもさらに)小さな政府を志向した政策を打ち出していました。とはいえ参議院選挙での勝利以後、政権与党となる可能性が見えてきたからでしょうか、公共事業に対する姿勢は以前と変わっています。
 今回の衆議院選挙では、自民党と民主党とが「社会福祉の大盤振る舞い」合戦を繰り広げています。(矢印でそれを示した)
 共産党・社民党は、はるか昔から「無駄な公共事業をやめて福祉を充実させよ」と訴えていたので、まあこのあたりかな、と。軍備をやめようという声が大きいぶん、社民を左にしてみた。
 公明党と、その他の小さな政党に関しては、よくわからないので割愛。


政策の相関図002.jpg


 ベーシック・インカムを支持するブロガーさんたちのもう一つの特徴は、自由主義経済を支持することです。政府が「直接お金を渡す」という方法の優れているのは、競争市場を生み出せる点です。食糧や住居を政府が「買い与える」方法とは、この点で決定的に違います。経済への規制は少ないほうがいいと考えているようです。
 グラフの縦軸は、経済活動へ規制をかけようとする度合を示しています。経済規制の強さは、小さいほうからブロガー→(越えられない壁)→民主→自民→社民→共産の順になるのではないでしょうか。当然、規制を少なくしようとしている政党ほど、自由主義経済を志向しているといえます。逆に規制を強めようとしている政党ほど「市場の失敗」を意識しているといえます。公害や、独占企業による価格高騰、電力や水道などの費用逓減産業など。


政策の相対図003.jpg


 最後に、社会福祉を充実させようとする度合と、経済活動へ規制をかけようとする度合とをグラフにしてみました。
 これら三つの平面から、三次元空間をイメージできます。


政策の相関図006.jpg
こんな感じ。我ながらひどい図だ。


 この三次元空間、原点に近いほど「小さな政府」を志向していると言えますし、離れるほど「大きな政府」になると言えます。ニュースなどで「ばらまき合戦により大きな政府になる」と言っているのはこのためです。今までの政府の立ち位置が「Gov.」で示したあたりだとしたら、2党の競争によって、その立ち位置がどんどん原点から離れた場所へと移動していることが判ります。
 またベーシックインカム制度への移行を主張するブロガーさんたちも、単純に「小さな政府を志向している」とは言えないことが判ります。ベーシックインカムの額をいくらにするか、という議論になった場合にばらつきがあるからです。都心で一部屋借りて暮らせる額にすべき、という意見もあれば、ネットカフェで暮らせれば充分という意見まで幅広く分布しています(つまり「健康で文化的な最低限度の生活」をどの程度と考えるかが問われます)

 国家も家計も、予算は無限ではありません。限りある資源をどのように分配するか、今回は「社会保障・公共事業・経済規制」という三つの軸から考えてみました。というより、グラフィカルに表現するのは三次元が限界でした、私には。
 考えるべき軸はまだまだ沢山あると思います。






注1)「他国と比較すると、日本の労働分配率はすでにありえないぐらい高い」という意見もあります。日本の給与体系は硬直的なので、バブル崩壊以後の景気が落ち込んだ時期に人件費を切り下げることができませんでした。その時に労働分配率が跳ね上がり、そのまま放置されてきたそうです。この視点に立った場合でも、「効果的な景気浮遊政策を行ってこなかった」のがダメだったと言えそうです。



注2)国民のサイフに金をつっこむという政策は、減税とよく似ています。日本では90年代に減税が繰り返されましたが、景気を浮遊させるという結果にはなりませんでした。この事実に基づき「国民のサイフに金を直接つっこんでも無意味」という反論を耳にします。
 で、どのように減税されてきたのか、所得税を例にとって表にまとめてみました。以下のとおりです。


所得税と消費税.jpg


 この表から2つのことが判ります。ひとつは90年代の減税は「累進課税の平坦化」だったということ。もうひとつは、減税に先だって消費税の導入・増税が行われていたことです。
 減税は、それが消費を喚起するものでなければ景気浮遊の効果がありません。表を見ればわかるとおり、年収300万前後の方への課税率はほとんど変わっていませんし、消費税を考慮した場合、むしろ増税となっていることが判ります。
 日本人の3分の1は年収300万円以下です。日本人の半分以上が年収500万円以下です。以下は平成20年のデータ。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/2-2.html
 したがって、90年代に行われた減税は、日本人の大多数にとっては手取り所得を増やすものではありませんでした。消費を喚起することができなかったのです。

 ベーシックインカムは遠い未来の議論で、今はまだ非現実的です。富の再分配の現実的な方法として、所得税の税率を(ちょっとでいいから)元に戻すのも有効だと思います。



posted by rootport at 12:45| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。

とても見取りやすく整理したうえで、BIを位置づけてくださり、とても分かりやすかったです。

BIについての基礎的な議論は「ベーシックインカム・実現を探る会」のホームページとメールマガジンにもまとめてあります。ぜひご参考になってください。

http://bijp.net/
http://archive.mag2.com/0000292484/index.html
Posted by nozuem at 2009年08月25日 17:07
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